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髪型


頬に太陽の光が当たって目を覚ました。
体を起こすと昨夜ほどきっぱなしで寝た名残で、髪の毛が背中を滑り落ちる。
いい加減伸ばしすぎかなーとか考えていると、アサシンの後ろ姿が目に入る。
部屋に一つある椅子に座って、どうやら髪を結ぼうとしているようだった。
裸の背中はしっかり筋肉がついていて手練れの雰囲気を感じさせる。
……うあ、あの引っ掻き傷は俺が付けたのか、もしかして。
ひそかに観察していると、視線に気が付いたのか奴が振り返る。
「おはよう」
「……はよ」
挨拶されたら返さないわけにもいかない俺の習慣。
お祖母さん、貴方の躾はちゃんと身に付いて抜けていきそうもありません。
このまま顔を突き合わせているのも不毛なので、服を探して適当に視線を動かす。
すると、奴は何か思いついたような顔で嬉しそうにこっちへ来た。
こいつが何か思いつくと十中八九俺に被害が来る。
「ね、ね」
ぼす、と俺にかかっているシーツの上から遠慮無く座り。
「髪結んで?」
にっこりと、手に持っていた紐を差し出してきた。
なんだか、自分の顔が思いっきり歪んだのがよくわかった。
「なんで」
自分でやれ、子どもじゃあるまいし。そもそもいつも自分でやってんだろうが。
「やってほしいから」
「……わかったよ、後ろ向け」
テコでも引かないような気がしたので、今回は俺が折れる。
寝起きで頭も口も上手く回らないし、朝っぱらから体力減らすのも馬鹿馬鹿しい。
嬉々として背を向けたアサシンの頭を手櫛で梳かす。
見た目以上にしっかりした、漆黒よりも薄い黒髪が指の間をすり抜けていく。
こいつ禿げそうもないな、とちょっとむかついてひっかかった部分を強引にほぐした。
「痛い」
「我慢しろ」
本当に痛そうな声ならともかく、笑いを含んだ声で言われても謝る気になれない。
どうせ恥かくのはこいつだし、せっかくだからおさげでも編んでやろうか。
髪の毛を弄びながらそんなことを思っていると、ちらりとこちらを振り返った。
「変な風にしたら君の趣味だって言いふらすからねー」
だから人の心を読むんじゃない。
しねーよ、と頭を軽くはたいて、普段通りの髪型を目指して髪をまとめる。
首の後ろ辺りで一本結びにするのがこのアサシンのスタイルだ。
なんでも一番邪魔にならなくて楽、らしい。
じゃあ切れ、と思うのだが、願掛けかなんかしているらしい。似合わないことこの上ない。
適当にまとめて、紐をぐるぐると巻き付ける。
うん、微妙にはみ出てる毛とかあるが、まあ及第点ってとこだろう。
「ほい終わり。文句あったら自分でやり直せ」
ぽんと肩を叩いてやると、こわごわと結び目に触れる。
あんたそんなに俺の腕に自信がないのか。
机の上に置きっぱなしだった鏡を取ってきて、自分の顔やら結び目やらを眺めるアサシン。
奇妙だ。
「うん、ありがとう」
何がそんなに嬉しいのか、妙にへらへら笑っている。
髪なんて、誰が結ぼうとあんまり変わらないと思うんだが。
「お礼に結んであげる」
「遠慮します」
鏡と櫛をきっちり持ってきて隣に座りながら言う奴に、返す言葉はお決まりのものだった。
この頃、とりあえず何か言われたら断るのが癖になってるな俺。
「あれ、紐がないな」
「人の話を聞け」
そして、そんな俺の言葉をこいつが無視するのもほとんど流れになっていて。
慣れって恐いな。
そもそも俺の紐はあんたが昨夜どっかにほっぽったんだろうが。
まあ、俗に言うポニーテールの状態で寝たら結んだところが痛くなるのでいつも外してるけど。
「あ、あったあった」
そうか、良かったな。
ベッドヘッドにかけてあった紐を見つけて、嬉しそうに笑う。
夜は夜で無意味なほどに楽しそうだが、朝起きた後は子どもっぽい無邪気さが三割り増しな気がする。
実は半分寝ぼけてるのかもな、と思っていたら体を反転させられて後ろを向かされる。
少し硬い指先が髪の間を通り、俺は諦めてため息を吐いた。
やってくれるってんなら放っておこう、実害もないだろうし。
「細くて気持ちいい」
何故かうっとりと目を閉じるのを、目の前に置かれた鏡越しに見る。
細い髪は禿げやすい、と聞いて密かに気にしてるのを知ってるのか貴様。
いや、俺の父さんは白髪コースだったし、祖父さんも禿げたって聞いたことはない。
だから大丈夫だ、むしろそうだと信じている。
「……おい」
鏡の中の光景に思わず声をかける。自分の眉が寄っているのが面白いほどよくわかった。
少しくすんだ金色の、祖母譲りのその髪を奴は一房持ち上げて口づけていた。
声をかけられて、わざわざ鏡の中の俺に目を合わせて怪しく微笑んでみせる。
髪を結びたいんじゃなかったのか、食ってどうする。
「真面目に結べって」
「たまにはいいでしょ」
ああ、一昨日散々髪の毛ひっつかんで揺さぶってくれた男の台詞とは思えないな。
やっぱり三つ編みでもちょんまげでもしてやるんだった。
その辺の思考が顔に出てたのか何なのか、奴は今度こそ大人しく髪を結び始めた。
後頭部に集めていって、首筋にかかる部分を持ち上げる。
夏は涼しくて良いんだよな、この髪型。
指の動きは実にスムーズで、くるくると紐を結ぶともう終わりだった。
自分で結んだ時より整ってる気がして、鏡を見ながらちょっとむっとする。
「おしまい」
「うわっ!」
ついで、とばかりに首筋を撫で上げられて背中が震える。
振り返って文句を言おうとしたら、何やら奴は良からぬ事を考えているようだった。
口の中で何かぶつぶつと言っている。
「……どうしたよ」
「鏡っていいよね……」
「は?」
「いや、こっちの話」
奴は妙なキーワードだけ残して、曖昧に首を振ってこの話題を打ち切った。
俺も、何か聞いたら帰れなくなりそうだったので、朝飯のことを考えることにしてベッドの横に散乱している服を手に取った。
今日という日は、まだ始まったばかりである。



End.



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