馬鹿アサシンと逆毛な騎士と、姉御
「今日はバレンタインっすね!」
「そーね、チョコは完売よ」
意気込んだ台詞をあっさりかわされて、アサシンはその場に撃沈した。
露店中のブラックスミスは、パイプタバコをゆっくりとふかしている。
「チョコなら食っただろうが」
「や、食った、食ったけどな……」
呆れたような騎士の言葉に、アサシンは更に肩を落とす。
騎士を背中から下ろしているペコペコは、同情するように彼を見た。
興味を持ったのか、ブラックスミスが身を乗り出してきた。
「なに、どっちかもらったわけ?」
「違いますよ、こいつ」
「わーっ、言うな、言うんじゃない!」
「うるさいわよ」
騒ぎ出したアサシンをデコピン一発で黙らせて、彼女は騎士の方へと向き直った。
一つ息をついてから騎士は話し出す。
「自分で材料集めて自分で作ってもらって、自分で食ったんす」
「はー……情けないわね」
「あ、姉御までそーいうこと言うんすか!?」
だったら一欠片ぐらいくれたって、といじける情けないアサシンは、とんでもないことを呟いた。
「いいさ、俺はぺこぽんと二人で仲良く寂しいチョコを食ったんだもん……」
「何!?」
その言葉に、騎士はいち早く反応した。自分の名前を呼ばれて、騎士のペコペコが首をもたげる。
ちなみにぺこぽんは騎士のペコペコの名前である。
「お前、ペコペコにチョコ食わせたのか!?」
「別にいーじゃん、ちょっとぐらい」
「良くない! ペコペコは元々鳥の仲間だぞ、草食だ!」
「チョコだって元を質せば植物だろー!」
「お前にそんな知性ある発言は似合わないんだよ!」
あっという間に口論だか漫才だかを始めた主人とその相棒にペコペコはうろたえ、
交互に首を動かして彼らを見つめる。
自分の店の前で始められたブラックスミスは、深い深いため息を吐いた。
こめかみにうっすらと青筋が浮かんでいる。
「あんたら……余所でやってちょうだい……」
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