名前(アコ剣士)
「…………ぽち?」
「はい。かわいいでしょう」
半ば呆然とアコライトが聞き返すと、剣士は自信たっぷりに胸を張った。
その腕の中には、子犬にしか見えないペットが抱かれている。
「何か、あんまり聞かない名前じゃない?」
「えっと、海の向こうの島国ではポピュラーな犬の名前なんですって」
いや、一応それは狼なんだけど、と言いかけて止める。
自分自身、デザートウルフの子が狼に見えることなど珍しい。
しかし彼は、剣士が海の向こうの国について妙に詳しいのは気にならないのだろうか。
尤も、自らに謎が多いアコライトはそんなこと気にならないに違いない。
「もうちょっと他の名前は……」
戸惑いながらも彼が口に出すと、剣士はがっかりした顔になった。
「……気に入りませんか?」
無意識なのだろう、ぽち(仮名)の両耳の間に顎をのせて
上目遣いでアコライトの目をじっと見つめてくる。
子狼の方も、彼とはちょっと違った目でこちらを見ている。
一瞬軽くめまいを感じた。
「うん、いいよ、それで……」
疲れたように額を抑えながら言うと、剣士はぱあっと表情を明るくした。
ぽち(決定)と目線を交わし、楽しそうに笑う。
その光景を見てため息を吐く、一人と一匹の飼い主であった。
「……何であんな名前がいいんだろう」
ぼそりと呟いた言葉は、やはり彼らには聞こえていないようだった。
|