休息


      穏やかな春の日差しの中、庭に面した通路に人影が二つあった。
      二人の間にはお茶請けのお菓子が置かれ、手にはお茶が入った器を持っている。
      長いマントを羽織ったマジシャンがお茶を口に含んだ。
      遠くで小鳥の鳴く声がする。

      「……のどかですねえ」
      「ほんとに」

      のんびりとした声でマジシャンが言うと、同じくのほほんと隣の剣士が同調する。
      剣士がお菓子を食べ、美味しそうに目を細める。

      「これ、美味しいですね。どこで買われました?」
      「ああ、そこの通りをちょっと行った所の……あんことかいうものをよく使っているお店です。
       なんでも遠い国の伝統的な菓子だとか」
      「道理で味わったことがないと思いました」

      にこやかに菓子をほめると、マジシャンの顔が嬉しそうにほころぶ。

      「あなたがいれたお茶こそ、いつも美味しいではないですか」

      マジシャンはそう言って、おかわりしても良いですかと器を差し出した。

      「そう言っていただけると光栄です」

      剣士はマジシャンの器を受け取り、変わった形のポットで茶を入れた。
      薄い緑の液体が注がれ、器から湯気が立ち上る。
      それをまた一口飲んで、マジシャンは満足げに息を吐いた。

      「そういえば、先日うちの実家で子猫が生まれましてね」
      「それはそれは。おめでとうございます」
      「ありがとうございます。故郷の方へは顔を出していますか?」
      「まあ、年に二、三回程度は」

      どこまでも穏やかな声のトーン、微笑をたたえた顔。
      春の日差しが二つあるかのように錯覚させる、そんな二人の雰囲気だった。

      と、遠くから風に乗って物音が聞こえてきた。
      ぴり、と空気が引き締まる。
      人の喧噪は常のものとは違い、ところどころに剣戟の響きが混じっている。
      剣士は素早く立ち上がり、脇に置いていた剣をつかむ。
      横を見ると、マジシャンも同じく立ち上がり杖を手にしている。
      荷物の中の回復薬を確認していたマジシャンが顔を上げる。
      目が合った。
      それも先程までのやわらげなまなざしではなく、冒険者としての目。
      町の人を守り、安全を脅かすモンスターを倒してこその冒険者として。

      「行きましょう」
      「ええ」

      二人は町中の戦場へと駆けていった。


      End.







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