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     仕事


      「じゃあ、報酬は成功報酬。失敗した場合も材料費はそっち持ち、でいいんだな?」
      赤茶けた髪をしたブラックスミスが確認すると、緊張した面持ちの剣士は大きく頷いた。
      「よし、じゃあ始めますか」
      路地の一角で、ブラックスミスは次々と武器製造の準備を進めていく。
      炎の燃え具合を確認してから、彼は傍らに控えるプリーストに合図を送った。
      プリーストは軽く頷くと、神の奇跡を願う。
      敬虔な彼の願いは聞き届けられ、神の使いがブラックスミスを祝福しに舞い降りてくる。
      神の祝福をその身に受けながら、ブラックスミスは鎚をふるった。

      祝福の気配が消えないように祈りを捧げながら、プリーストは鎚をふるう彼の姿を見ていた。
      彼の手の中で金属が姿を変えていく。
      それはあたかも彼に命を吹き込まれているかのようで。
      黒々としたまっすぐな目が、金属の動きを追う。
      頭ではなく体で、次はどうするかを考えているのだ。
      プリーストはそんな彼の目を見るのが好きだった。


      「ありがとうございました!」
      「いやいや、どーいたしまして」
      「おめでとう」
      彼の銘が入った一振りの剣を大事そうに抱え、剣士は歩き出した。
      よほど嬉しいのか、途中何度も振りむいては頭を下げてくる。
      「こけるなよー…」
      精魂込めて作った武器が上出来だったらしく、疲労の色をにじませながらもブラックスミスは上機嫌だった。
      地面に座り込んで、ひらひらと手を振っている。
      通りの向こうから剣士の連れらしいアコライトがやってきて、なにやら立ち話をしている。
      アコライトはこちらを向くと、聖職者特有の礼をした。
      魔力が尽きて座っていたプリーストは少々慌てて立ち上がり礼を返す。
      そうして二人は並んで去っていった。
      「初々しいよなあ、あーいうの」
      「そうだな」
      「ああいう奴がいるから製造業もいいもんなんだよなー。
       思わず代金負けちまったよ」
      「……良かったのか?」
      問われて、ブラックスミスはくしゃと髪をかき上げた。
      「損してる訳じゃないし。ああいう奴に使って貰えば剣も幸せだろうしな」
      あの坊主なら売り飛ばしたりしないだろ、と笑う。
      「お前らしい、な」
      「そうか?」
      かすかに笑ったプリーストの同意を得て嬉しいのか、製造に使った道具をカートの中に戻していく。
      「そういやさ、お前は神父とかにはならねーの?」
      「神父?」
      突然の問いかけにプリーストは眉をひそめた。
      「教会に行くといるじゃん。だから、いつか神父とかになるのかと思って」
      「それは、ないな」
      彼としては短くすませたかったのだろうが、ブラックスミスの目に負けて話し出す。
      「神父候補の聖職者など山といる。基礎魔力が低い私では無理だ」
      「あ……悪い」
      神の奇跡を請うには、魔力が必要となる。より大きな術の行使には、より多くの魔力がいるのだ。
      そしてこのプリーストには、いかに信心深くとも魔力が少なかった。
      「お前が謝る事じゃない。それに、お前のおかげで食いっぱぐれなくてすむしな」
      「おう、そうか! ……そうだな、お前が神父になっちまったら困るかも」
      「何故?」
      ブラックスミスはにかっと笑った。
      「もうお前以外の支援じゃ上手く武器作る自信ねーもん」
      虚をつかれたプリーストは目を見開いた。
      それから、少しばかり彼から目をそらす。
      「それは……ありがたいな」
      「だろー? だから、俺を見限らないでくれよな!」
      それはこちらの台詞だと、喉まで出かけた言葉を飲み込む。
      その代わりに、彼の手を見つめた。
      数多の武器を作り出すその手は、狩りに行けば斧を握る。
      それでもその腕は落ちることが無く、週の半分は製造で生計を立てている。
      時折うらやましいとさえ、思う。
      この男の生き方が。
      「おーい、どした?」
      目の前で動く手にぎょっとして身を引く。
      半ばごまかすために、彼は自前の看板を取り出した。
      「いや、そろそろ仕事をしようかと思ってな」
      「お、ポタ屋か…でもここじゃ客少なくないか?」
      「別に構わない」
      製造依頼を待つブラックスミスや露店を開いている商人がちらほらいるだけの路地だ。
      確かにあまり集客数は望めないだろう。
      だが、わざわざ同業者がいる所に行くのも好まないし、何より急に製造依頼が入ったら困る。
      だから、彼はここで仕事をするのだ。
      と、看板を出したとたん、二人連れの冒険者が向かってきた。


      「すいません、オークダンジョン前まで頼めますか?」
      「了解した」
      プリーストに話しかけてきたのは剣士だった。
      その後ろには、何処か不機嫌な顔をしたシーフが立っている。
      若いよなあ、とブラックスミスはその様子を眺めながらぼんやりと思っていた。
      「代金は二人分で」
      そう言って剣士が渡したのは、青いジェムストーンを3個と、幾ばくかの現金だった。
      看板に記した料金より、だいぶ高い。
      「おいこら、んなに払うこと……」
      「黙っててよ。魔力を使って飛ばしていただくんだから、それ相応の対価を支払うのは当然だろう?」
      「だからってな、」
      「約束の時間はすぐなんだよ? それとも君、あの人を待たせたいわけ」
      反論に割り込んで言ってやると、シーフは口をつぐんだ。
      疲れたように肩を落としている。
      プリーストはその口論には関係ないように、声を出して注意を喚起した。
      「で、送ってしまって構わないのか?」
      「はいそうです、お待たせしました」
      「では始めよう」
      プリーストはすっと立ち上がり、魔力の媒介を手に握った。
      ブラックスミスはその様子をカートに寄りかかりながら眺めている。
      いつもながら、彼の祈りを捧げている時の姿勢はよい。
      ぴんと一本の木のようにまっすぐ立っている。
      「ワープポータル」
      呪文も、良く響く声で唱えられる。
      この支援を受けるのが世界で自分だけだと思うと、自然顔がほころんでくるのが抑えられない。
      白く光を放つ輪が二人の足下に出現し、二人の姿はかき消えた。
      砕け散った青いかけらが、きらきらと陽光に反射して空気に溶けていく。
      プリーストは一つ息をつくと、すとんと地に腰を下ろした。
      その動きに合わせて金の髪が揺れる。
      「おつかれさん」
      青いポーションを差し出すが、プリーストは軽く手を振ってそれを断った。
      ブラックスミスはちょっと困ったように手の中のポーションを見つめていたが、それはカートの中に戻した。
      かわりにリンゴジュースを二つ取り出して、一つを彼に押しつける。
      彼は少しの間ジュースを眺め、ブラックスミスが飲んでいるのを見て自分も口を付けた。
      「うーん、やっぱり製造の後の一杯はいいな」
      「ニンジンジュースの方が体に良いんじゃないか?」
      「リンゴジュースのが甘いじゃん」
      「……そういう問題か」
      「そういう問題だ」
      きっぱりとブラックスミスは言い切った。
      心なしか呆れたような目をしてプリーストがそっぽを向くが、本当に呆れられたわけではないと願いたい。
      のんびりと二人並んでジュースを飲みながら、通りを眺める。
      むこうの方でブラックスミスが誰かともめているのが見えるが、別に製造に失敗した客との諍いでもないらしい。
      そういえば自分が失敗してもプリーストが怒ったことはなかったな、と思い返す。
      「なあ、お前俺が失敗しても怒らないよな」
      つい気になって聞いてしまう。
      「お前は滅多に失敗しないだろう」
      そういえば、このごろはあまり失敗していなかった気がする。
      「そりゃあ、支援の腕が良いからな」
      からかうように言えば、彼は困ったようにそっぽを向いてしまう――はずだった。
      「そうかもな」
      彼は照れた様子もなく、何でもないことのようにさらりと言ってのけた。
      そしてまた、リンゴジュースを口に含む。
      「……へ」
      珍しく言葉に詰まってしまった。
      そんな返し方は頭の中に予想しておらず、軽口も思いつかない。
      ついつい彼の横顔を凝視してしまう。
      (……ちょっとは進展したってとこか?)
      楽観的予想が頭に浮かぶも、そんなことはないだろうと打ち消す。
      何と言っても彼は、神に仕えるプリーストなのだから。
      (待て、ライバルは神サマってことか!?)
      そう考えると頭が痛くなってきて、カートにもたれて空を見上げた。
      青空までもが、自分をあざけわらうかのように思えてくる。
      「ちっくしょ、絶対勝ってやる」
      小さい声で宣戦布告をした。
      と、それを聞きつけたようでプリーストがこちらを見ている。
      「何か言ったか?」
      ひょいと彼の顔を見やる。
      いつもと同じ、彼の顔。
      「いーや、何でも」
      それだけ答えて、ブラックスミスはカートの中にリンゴジュースの空き瓶を放り込んだ。


      End.





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