26 「てめえにゃそれがお似合いだ」


      「生まれ変わったら、何になりたい?」
      ぽつりと彼は口にした。


      「ああ? 何じゃそりゃ」
      「よく言うじゃないか、生まれ変わりって」
      訳がわからんと聞き返してきたローグを諭すように、謳うようにバードが言う。
      大きな太陽が沈んでいく刹那の時間、あかとむらさきが空を覆っている。
      「生まれ変わったら……ねえ」
      くわえていたタバコを足下に落として踏みつけながら、顎に手をやって少し考える。
      ポイ捨てをするなと向けてきたバードの視線は無視した。
      「俺」
      「はあ?」
      座ることもせずに、ローグは自信満々に言い放つ。
      「生まれ変わったら、俺になりたい」
      少々呆気にとられているらしいバードを見下ろしながら蕩々と語り始める。
      「俺は、俺に生まれて俺の道を通って俺になってきた。だからこそ、脱落しようが死のうがくじけようが
       俺はいつでも俺になる。今の俺が最高で、過去の俺も最高で、未来の俺は超最高だ」
      「……ナルシスト」
      「うっせ」
      バードの言葉を一言で切って捨て、ローグは挑むような眼差しを彼に向けた。
      どこか羨望が混じった目を向けられていることに、気が付かない振りをして。
      「お前はどうなのよ? 生まれ変わったら何になるんだ」
      「僕は、生まれ変わりたくなんてないけど……もしなるとしたら」
      草がいい、とバードはローグを見ずに言った。
      その目は落ちゆく太陽に向けられていたが、きっと彼は何も見てはいないのだろう。
      「草ぁ?」
      ローグはその返答が気に入らなかったらしく、柄も悪く問い返す。柄が悪いのは今に始まったことではないが。
      「そう、草」
      「あー……あれだな、生えているけど誰もが気づかずに通り過ぎる緑草だ」
      「いや、それはないんじゃないか」
      気分を害したのか、せめて輝きたいと冗談めいて言ってくるバードに、ローグは意地の悪い笑みを向ける。
      「てめえにゃそれがお似合いだ」
      「……非道いなあ」
      全くそうは思っていないような口調でバードが漏らす。
      「いいんだよ、誰にも刈られなくてぽつんと立ってるてめえを、この俺が直々に刈ってやる」
      「スティル付き?」
      「緑ハーブ二枚とってどーすんだ」
      からからと笑うローグも、改めて夕日を見た。
      逆の方向を振り返れば薄闇が迫っているのだろう、最後の手を伸ばす太陽はいつでも潔くて執念深い。
      それでもあれは、明日になればまた這い上がってくるのだ。
      「俺の手にかかることを光栄に思え」
      「うーん、君に刈られるために生まれるのは遠慮願いたいね」
      「じゃあ」
      何のためになら生まれてこれるのだ、と聞こうとして止めた。
      草になりたいのだと彼は言った。
      ただひたすらに生まれて、誰にも疎まれることなく、生きる理由を持ちながら風に吹かれる草でありたいのだと。
      ローグは生まれ変わりなど端から信じていないし、バードとて同じだろう。
      だからこれは、ただの言葉遊びに過ぎないのだ。
      「俺が見つけるまで、いなくなるんじゃねーぞ」
      「未来は誰にもわからないよ」
      「くおら」
      わからないよ、と彼がぽつりと言った。



      End.




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