21 「女って生き物は永遠の謎だ」
首都プロンテラの露店が立ち並ぶ通りから一本引っ込んだ辺りの、人通りが少ない裏路地。
ローグとクルセイダーが、大量の荷物と共にその壁に寄りかかって座っていた。
二人とも疲れ果てた顔で座り込んでいるが、その胸元には最近有名になってきたギルドのエンブレムが縫いつけられている。
ローグはため息を吐くと話を切り出した。
「女って生き物は永遠の謎だ」
「……同感だ」
向かいの壁を眺めながら言っても、右隣からはきちんと返事が返ってくる。
最近座る時は何故かクルセイダーはよくローグの右側に座る。
「どこをどうしたら、ここまで買い物した後にまだ買う気になれるんだか」
「物が欲しいと言うよりも、買い物がしたいという思いの方が強そうだな」
「無駄遣いするなってのに」
ローグらしからぬ発言まで出てきた。
彼らがこんな所で座り込んでいることの発端は昨夜の食事の時にある。
昨夜いつものように砦の一室に集まって夕飯を食べていると、マスターを初めとする数人の女性が買い物に行きたいと
言いだしたのだ。そしてそれに便乗するかのように他のメンバーも買ってきて欲しい物を挙げはじめ。
女性陣だけでは持って帰ってくるのが大変だから、と荷物持ちに指名されたのがこの二人だった。
他にも男はいるのだが、皆何だかんだと理由をつけて逃げてしまった。
結局買い出しに出たのは朝食を食べてから数時間後だったのだが、太陽はすでに傾きかけている。
「……そういえばさあ、お前が精錬所行ってた時」
「ん?」
ローグは唐突に話題を変えた。しかし彼が唐突なのはいつものことだとクルセイダーは軽く訊き返す。
「パラライザーカクテルのマスターに会ったんだよ」
「ああ……攻城戦で有名だとかいうギルドか。うちのマスターがえらくお気に入りの」
攻城戦に参加するギルドの中でも有数のギルドを束ねているマスターはネーミングセンスには恵まれなかったらしい。
「そしたら、マスターが妙にしおらしくなってよ、頬染めたりしちゃってんの。あのマスターがだぜ?」
そう言われてクルセイダーは、頭の中にいつものマスターのイメージを浮かべてみた。
活発と言えば聞こえはいいが、ぽんぽん人を殴る癖。
鮮やかに人を笑い飛ばす際の豪快な笑い方。
酒が好きなくせに弱く、笑い上戸になって周りのギルメンを殴り飛ばす姿。
「熱でもあるんじゃないのか」
彼がそう考えたのも無理はない。
確かに人望はあるし人間は良くできているが、女性らしくしているイメージは全く合わない。
「そうだったらどんなにいーか」
笑いをこらえるのに大変だったぜと額に手をやって言うローグに、クルセイダーは思わず同情の視線を向けた。
クルセイダーとて、女性がそういう風になることがあるのは知っている。
しかし、それがあからさまにいつものマスターと印象が違うのだ。
「……女性という生き物は永遠の謎だな」
「同感だぜ」
先程と同じようなやりとりを、お互いの台詞だけ交換して。
彼らは彼女たちの買い物が終わるのを赤くなってきた太陽を眺めながら待っていた。
End.
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